王浩然
エイドリアン・ウォンの作品は、多くが自身のアイデンティティと作品の中の文化人類学的/歴史的な香港の物語についてだ。作品形態は様々であるが劇場的なインスタレーションが多い。香港における様々な日常の中の呪術的な要素を彫刻作品にしたり、社会学的な手法でリサーチとインタビューを敢行し、人々の記憶にのこる架空の女優の物語を再構成して短いミュージカルにしたりする。香港の大衆文化や世論を、米国の第二世代としてのハイブリッドな彼自身の眼で切り取る。自身の血縁とルーツ、実際の調査による様々な歴史的要素や迷信などを想像力でふくらませ奇妙にツイストした様々なエピソードを組み込んでしまうのがウォンの作品だ。
サンヤッファイロク(お誕生日おめでとう)(2008)は撮って出しだったために記録のない子供向けのテレビ番組を番組セットのインスタレーションと再現番組で構成した作品である。60年代に人気だった子供向け番組「カルビンのコーナー」、「子供達のコーナー」、「お誕生日おめでとう」(それぞれ、1965年から70年頃)を綿密なリサーチをもとに再現した。実は彼の祖父の猿が実際にその番組に出ていたという。セットは忠実に再現されているが、でてくる様々なお話やエピソードは暴力や自慰、死、狂気とエビの幽霊などおそらくは実際の放映された番組とはかけ離れた、全く子供向けとはいえない不可思議な物語ばかりだ。その中のひとつに、かなりエキセントリックな人物で親戚からは煙たがられていた彼の祖父の死の床の話も影絵の物語として盛り込まれている。作品は彼自身の香港人としてのルーツをたどる旅でもあり、甘い砂糖とブラックユーモアでくるんだウォンのスクリプトにより展開している。小児心理学を学んだウォンは、作品に実際に司会者として登場している。
エイドリアン・ウォンは1980年シカゴ生まれ。発達心理学の修士をスタンフォード大学で取得した後にエール大学でMFAを取得し、香港で作家活動を開始した。現在は香港と米国に居住、1年の半分はカリフォルニア州立大学ロサンジェルス校で教鞭をとる。
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